韓国映画『バーニング 劇場版』レビュー|“ある”と思い込むな。“ない”ことを忘れろ。

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人が消えるより怖いのは、「消えた証拠が何もない」ことです。

観終わったあと、言葉が消えました。
理解できなかったからではありません。
理解しようとすること自体が、どこか無意味に思えたからです。

妙にリアルで、妙に不気味で、妙に嫌な空気。
はっきりとした恐怖も、はっきりとした事件もあるのに、輪郭は常にぼやけている。
ゆらゆらと、どこにも着地しないまま漂い続ける感覚。

あの夕暮れの色だけは、いつまでも消えません。

 

 

  • 考察が好きな人
  • 不穏な空気を楽しめる人
  • 村上春樹的世界観が好きな人
  • 答えのない物語に耐えられる人

 

総合評価 (5点満点)

4.4 / 5.0

  • 余韻:★★★★★
  • 不穏さ:★★★★★
  • 分かりやすさ:★☆☆☆☆
  • 考察欲:★★★★★
  • エンタメ性:★★☆☆☆

万人向けではありません。
スッキリしたい人には向きません。
答えが欲しい人にも向きません。

でも。

“映画という体験”を味わいたい人には、深く刺さる一本です。


目次

作品情報

・公開日:2019年2月1日
・ジャンル:ミステリー
・監督:イ・チャンドン
・原作:村上春樹「納屋を焼く」
・出演:ユ・アイン、スティーブン・ユアン、チョン・ジョンソ

第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。
韓国映画の中でも、特に“考察”を呼ぶ一本として語られる作品です。

\ PrimeVideoで観る /

あらすじ

配達のアルバイトをしながら小説家を目指す青年ジョンス(ユ・アイン)。
彼はある日、街中で幼なじみのヘミ(チョン・ジョンソ)と偶然再会します。

整形をしたと言う彼女は、どこか現実感の薄い存在です。
「井戸に落ちた私を覚えてる?」と問いかけるヘミ。
しかしジョンスには、その記憶が曖昧なまま残っています。
最初から、“確かさ”は揺らいでいるのです。

二人は急速に距離を縮め、ヘミはアフリカ旅行へ旅立つ前、ジョンスに猫の世話を頼みます。
けれど、その猫は姿を見せません。
餌は減っているのに、姿は見えない。
名前は「ボイル」。
存在は、あるのか、ないのか。

帰国したヘミは、ベン(スティーヴン・ユァン)という男を連れてきます。
高級マンションに住み、高級車を乗り回し、職業は不明。
余裕と無表情を同時にまとった、掴みどころのない男。

三人で過ごす夜、ベンは静かに打ち明けます。

「僕は趣味で、ビニールハウスを焼くんだ」

それは告白なのか、冗談なのか。
彼は近いうちに“また一つ焼く”と言います。

その直後、ヘミは突然姿を消します。

連絡は取れず、部屋は片付けられ、痕跡は曖昧。
猫も、いない。
ベンは変わらず穏やかに笑っています。

ジョンスは疑念に取り憑かれます。
ヘミはどこへ行ったのか。
ベンは何をしているのか。
ビニールハウスとは何の比喩なのか。

しかし、証拠は何一つ提示されません。
消えたのはヘミなのか、確証なのか、それともジョンスの理性なのか。

物語は、真実を暴く方向には進まず、
“疑い”だけを静かに燃やし続けます。

感想

この映画が重く響く理由

“確かなもの”が一つも提示されないから。

観客は常に不安定な地面の上に立たされます。
事件は起きているのか。
被害者はいるのか。
加害者はいるのか。

それとも、何も起きていないのか。

答えを探そうとするほど、足場は崩れていくのです。

夕暮れの裸のダンスという象徴

多くの人の記憶に残るのが、あの夕暮れのシーンでしょう。

ヘミが上半身裸で踊る場面。
オレンジ色に染まる空。
流れる音楽。
ゆらゆらと身体を揺らす姿。

彼女が語る「Great Hunger」と「Little Hunger」。
肉体の飢えと、存在の飢え。

あの踊りは、祈りにも、絶望にも、別れにも見えます。
ここから何かが始まるようでもあり、すべてが終わる瞬間のようでもある。

あの場面だけが、異様に美しい。

でも、その美しさもまた、どこか不吉なのです。

ベンという“無音の恐怖”

スティーヴン・ユァンが演じるベンは、怒鳴らないし、暴れない。
ただ、穏やかに笑い、淡々と話す。

だからこそ怖い。

彼は本当にビニールハウスを焼いているのか。
それとも、何もしていないのか。

観客は彼の言葉を信じる材料も、否定する材料も与えられません。

この曖昧さが、じわじわと精神を侵食します。
ホラーのように驚かせるのではなく、静かに体温を奪う恐怖。

ジョンスの“怒り”はどこから来るのか

ジョンスは貧しい若者です。
父は暴力事件で裁判中。
夢はあるが、現実は閉塞している。

ベンの余裕。
ヘミの自由さ。
自分の停滞。

格差、階層、嫉妬、孤独。
それらが絡み合い、彼の内側に小さな火種を作ります。

けれどその火が、本当に“正義”なのかどうかは分からない。

彼の怒りは、事実に基づくものなのか。
それとも、自分の劣等感が生んだ妄想なのか。

映画はそこを、決して断言しません。

理解できないという体験

観ている間、きっと多くの人が考察を巡らせます。

・ヘミは本当に存在していたのか
・ベンは連続殺人犯なのか
・ビニールハウスとは何の象徴か

でも、エンドロールが流れる頃、ふと気づくのです。

「あれ……結局、何も掴めていない」

そして残るのは、“無”。

でもそれは、空虚ではありません。
説明できない感情だけが、重く沈んでいる。

この映画は、理解するための作品ではなく、
“漂うための作品”なのかもしれません。

“ある”と思い込むな。“ない”ことを忘れろ。

作中で語られるように、人は“ある”ものを探したがります。

証拠。
真実。
犯人。
意味。

でも、もしかしたら。

最初から“ない”のかもしれない。
事件も、確証も、答えも。

それでも人は、
“あるはずだ”と信じてしまう。

この映画は、その思い込みを静かに崩します。

だから不安になる。
だから嫌な感じが残る。

でも、その不快さこそが、この作品の核心です。

まとめ

『バーニング 劇場版』は、
物語を理解する映画ではありません。

不安の中を、ゆらゆら漂う映画です。

考察をしてもいい。
しなくてもいい。
答えを探してもいい。
探さなくてもいい。

ただ一つ言えるのは——

“ある”と思い込むんじゃなく、
“ない”ことを忘れたとき、
この映画は静かに燃え続ける。

そしてその火は、
しばらく、あなたの中で消えません。

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bee.
ブログ運営者
韓国ドラマ・韓国映画を中心にレビュー。
サスペンス、人間ドラマ、余韻の強い作品が好き。
日常的に韓ドラ・韓国映画を視聴中。

“なぜこの作品が刺さるのか”を言語化したくてブログを続けています。

一気見して眠れなくなった夜。
観終わったあともしばらく感情を引きずる作品。
そんな“余韻が残るドラマ”を中心にレビュー。

ネタバレはできるだけ避けつつ、
空気感、演出、感情の温度まで伝わるレビューを目指しています。

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